夕凪の街 桜の国

こうの史代の同名名作漫画を『半落ち』の佐々部清監督が映画化。
原作漫画の世界を大切に慈しみながら描きつつも、
『桜の国』の七波のエピソードに回想シーンを折り込むなど独自の演出法で、
原爆がひとつの家庭に起こした悲劇を綴っていく。
前半の皆美の悲しい運命には胸がつめつけられ涙が止まらないほどだが(麻生久美子好演)、
その感動を受けて展開していく後半の七波の物語は、
演じる田中麗奈のサッパリとした個性が際立つ。
何も知らなかった彼女が父と母の出会いを知り、封印していた母親の死の真実を知る。
七波の心の旅が、そのまま観客の『夕凪の街 桜の国』の旅となり、
感動がじんわりと心にしみこんでいく。戦争、原爆、核というと堅いが、
それを自然に考えさせられる、こんな悲劇を繰り返してはいけないと切実に思わせる傑作だ。

夕凪の街桜の国